オーナーインタビュー Vol.1

未完の蓼科。

春夏秋冬、朝昼夕夜、刻々と変化する蓼科の風景。
ひとつとして同じものはなく、つねに新しい発見に満ちている。平成元年から『蓼科高原チェルトの森』のアトリエで創作活動を行っている画家の中川脩さんに、何年経っても色褪せない蓼科の魅力についてお話を伺った。

驚きの連続見たこともない自然現象

蓼科高原チェルトの森に別荘を持つまで、東京吉祥寺のアトリエで新聞小説の挿絵や小説の装丁イラスト、美人画など、ジャンルにこだわることなく自由な発想で艶やかな美の世界を創造してきた中川さん。徹夜の連続で年間千点にも及ぶ作品を手掛けていた時期もあったという。

忙し過ぎる状況からなんとか脱却し、のびのびと描ける環境が欲しいという思いで蓼科高原にアトリエを構えた。

中川さんと蓼科の縁を取り持ったのは趣味のゴルフ。八ヶ岳の大自然に抱かれてプレーするうちに、爽やかな高原の空気、清楚な白樺の森、光の陰影や霧が描く風景に心を惹かれ、別荘購入を決意したという。

当初は春夏秋の三シーズンのみ滞在し、寒さが厳しくなったら吉祥寺に帰るつもりだったらしいのだが、或る冬の朝、珍しい自然現象に出逢った。

「槻の池を散歩していた時に、凍りついた水面の上に白い花びらのようなものが散りばめられていたんです。何だろうと近づいてみると”フロストフラワー“。水蒸気が花のように凍ったもので、特別に冷え込んだ時にしか見られない自然現象だったんです。こんな珍しいものに出逢えるのなら、冬も居ないともったいないと思ったんです。」と、フロストフラワーの写真を見せてくれた。

大きさはモミジの葉ぐらいあるのだろうか、雪の結晶を大きくしたような白く繊細なフロストフラワーが氷を埋め尽くしていた。冷え込みの厳しい日だと、お昼頃まで溶けずに残っているらしい。

「ついこの間は、庭で丸い虹を見ました。太陽が二つ現れる”幻日“も二度見たことがあります。蓼科にいると、非常に珍しい自然現象に遭遇することが一年のうちに何度もあるんですよ。こちらに来て二十五年経ちますが、未だに驚きの連続です。」

オオルリの巣づくりタヌキのシロちゃん

中川さんの驚きは、貴重な自然現象だけに留まらなかった。蓼科のアトリエで過ごしはじめて間もなくすると、ウサギやリス、タヌキなど森の住人たちが庭先に訪れるようになったという。人が住んでいる場所なら猛禽類に襲われる心配がないのだろうか、芝の上でウサギがくつろいでいたり、薪木の隙間でウソが隠れん坊をしていたり、小動物たちの憩いの場になりはじめたそうだ。

「オオルリが庭に巣を作った時もありましたね。庭のあちこちで何度も青い鳥を見かけたので鳴き声をたよりに探してみたら、巣があったんですよ。ヒナたちの巣立ちも見届けることができました。」

天然記念物のニホンカモシカは、隣人のようなもので、中川さんのすぐ近くまでやって来るそうだ。「何か気配がするなぁと思って振り返るとほんの二mほどのところに立っていたり、カメラを向けても逃げようともしません。」中川さんが庭で撮影したニホンカモシカの写真は、まさにカメラ目線。ポーズをとっているかのように立ち、まるでアイドルのブロマイドのようである。

「夜になるとタヌキの親子連れがやって来るんですよ。その中になんと真っ白なタヌキの子供がいたんです。遺伝子の突然変異で生まれてきたアルビノタヌキで、目の色がサーモンピンク。滅多に見ることのできない非常に珍しいタヌキです。道の向こうからあたりを見回して、誰も人がいないことを確かめ、一目散に走ってくる姿が無邪気で可愛いくてねぇ。シロちゃんと名付け、会うのを楽しみにしていたんです。残念ながら去年の冬から見掛けなくなりました。」

白い身体は目立つので外敵に襲われやすい。先天的にメラニン色素が欠乏しているなど身体が弱い面もある。自然界の不思議を象徴したかのような白いタヌキ。どこかの森で元気に暮らしていてもらいたい、と中川さんは願っている。未完の蓼科。春夏秋冬、朝昼夕夜、刻々と変化する蓼科の風景。ひとつとして同じものはなく、つねに新しい発見に満ちている。平成元年から『蓼科高原チェルトの森』のアトリエで創作活動を行っている画家の中川脩さんに、何年経っても色褪せない蓼科の魅力についてお話を伺った。

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興味の対象が次から次へ現れる蓼科では、
絵の題材に事欠かないと語る中川脩さん


中川さん庭で撮影されたリング状の丸い虹
(写真:中川さん提供)


真冬の槻の池に散りばめられた氷の花
“フロストフラワー” (写真:中川さん提供)


中川さんの傍らに「こんにちは」とやってくる
ニホンカモシカ(写真:中川さん提供)


夜な夜な通って来ていたアルビノタヌキのシロちゃん
(写真:中川さん提供)