蓼科生活Vol.1 森に、新たな息吹 ── 蓼科ガーデン。
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多種多彩な草花が青々と葉を輝かせ、活力に満ちたI山荘の庭

敷地面積が1,000㎡以上の別荘地では、街の常識を遙かに超えたガーデニングが楽しめる。
森本来の魅力を引き出し、季節の花々で彩り、新しい世界観が生まれたI さんの庭にお邪魔してみた。

 この庭には、一体どれだけの種類の草花があるのだろう。アジサイ、バラ、シャクヤク、クレマチス、ヤナギラン、ユウスゲ、シャクナゲ、ジキタリス、スズラン、ローズマリー……、ちょっと見渡しただけでも何十種類、いや何百種類もの花やグリーンリーフが目の前に広がっている。
丸太や石で組まれた花壇や芝生の広場、散策路も整備され、ペンションやレストランのナチュラルガーデンのようだ。しかも驚くことに、この庭はガーデナーなどプロの手を借りることなく、Iさんご夫妻二人だけで作っているという。

手つかずの状態だった約5年前のI山荘

5年間かけて作り上げてきたI山荘の庭

土づくり、森の再生

 Iさんがチェルトの森で暮らしはじめたのは約五年前。若い頃からスキーとテニスが趣味で頻繁に信州を訪れ、爽やかな高原の空気に触れるたびに「信州で暮らしたい」という思いが募り、定年を機に長年住み慣れた名古屋から蓼科へ移り住んだという。
 昔から花が好きで、名古屋の自宅の庭も季節の花々で彩っていたIさんは、1,000㎡超の広々とした敷地を得て、自生するシラカバやケヤキを活かしたスケールの大きな庭づくりに着手。自然林に彩りを添えるため、花々の苗を植えようと土を掘り起こしたところ、なんとフジとクサボケの根が伸び放題であった。

重い土や丸太などの運搬に大活躍の一輪車。庭仕事の力強い相棒である

土をつくり陽当たりを改善した庭は、草花の生育がよく緑に満ちあふれている

 Iさんは、敷地内のほぼ全域の土を1m近く掘り起こし、フジとクサボケの根を取り除き、腐葉土、培養土、油粕を加え、一年かけて土づくりを行った。
 また樹木の手入れを長らく行っていなかったため林床に陽が届かず、草花の生育も芳しくなかった。Iさんは間伐を行い、陽当たりを改善した。

シラカバの自然林に溶け込む色鮮やかな草花たち。
森にハルゼミの声が染みわたる初夏の蓼科ガーデンをご覧いただけます

花たちの心のままに

 Iさんはまず草花の生長に適した環境を整え、満を持して花の苗を植えはじめた。ホームセンターなどで標高の高い寒冷地に適した草花の苗や種を買い、植えて行くうちにどんどん増え続け、現在では、バラだけでも35種類あるそうだ。
 手入れをして陽当たりが良くなったことにより、芽を出しはじめた実生の山野草も多く、ニリンソウ、ユウスゲ、ヤナギラン、フタリシズカなど、予期せぬ山野草との出会いも楽しめた。眠っていた山野草が蘇り、蓼科の森もきっと喜んでいることだろう。

庭に延びるレンガの小径もIさんが敷いたもの。こぼれ種で増えたビオラをはじめ様々な草花が、とても賑やか

ピンクの大輪のバラ

自然と芽が出て群生しはじめたニリンソウ

 「最初のうちは庭のスケッチを描いて、ここはピンクゾーンに、あそこはホワイトゾーンになどとレイアウトを考えていたのですが、実際に植えてみるとなかなか思いどおりに育ちません。こぼれ種で想像以上に増えた花もあれば、忘れた頃に芽を出す宿根草もあります。
 植物たちは気の向くままに青々と葉を広げ、その世話をしているうちに、多種多彩な花が咲く庭になってきました。」
 花もIさんが手を掛ければ掛けるほど美しい彩りを見せ、期待に応えてくれている。

自然林に溶け込む植樹した花木たち

シラカバ周りの寄せ植えと愛犬ラッキー

庭づくりが取り持つ縁

 また庭仕事をしていると散歩の途中で話しかけてくるご近所の方も多く、庭づくりを楽しむオーナー同士の交流が広がっているという。
 「向かいの道から『何を植えるの?』と気軽に声を掛けられたり、『良かったらどうぞ』と苗を分けていただいたり、オーナー同士の交流が増えましたね。」とIさん。
 庭でお茶やお菓子を楽しんだり、山菜料理などおかずの交換会をやったり、ご近所との交流は街で暮らしていた時以上に盛んだという。
 自然の中で暮らしていると、心が安らぎ互いに自然体で付き合えるのかもしれない。互いの庭を見て刺激を受け、ますます美観に磨きがかかっているようだ。

毎春シジュウカラが雛を育てている巣箱

緑の中でお茶やランチが楽しめるウッドデッキ

庭仕事の合間に休憩できるガーデンテーブル

 「透明感のある高原の空気、風の音色、緑の香り、花の彩り…、ここにいるだけで本当に気持ちがいい。リスも遊びに来ますし、春になると樹の上に用意した巣箱で毎年シジュウカラが子育てをしています。森の仲間と一緒に暮らしている感じがして、嬉しくなってきます。」
 彩り豊かなIさんの庭に、森の住人たちも引き寄せられているようだ。庭づくりが取り持つ縁は、蓼科生活にかけがえのない交流の輪を広げている。